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#004 User’s Voice

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「インプレッションのいんぷれっしょん」

2005年の春のことである。偶然に見つけたシンプルな未完成のホームページを足がかりにして、アベギターズの工房にたどりついた。最初はギターやお互いが好きなミュージシャンのことなどを話した。ホームページでの情報で阿部さんがとても高名なギター製作家について修行していた事を知っていたので、職人気質の気難しい人柄かなと心配してもいたのだけれど、気さくで柔軟な考え方のできる人とわかってホッとした事を覚えている。

ちょうどその頃、ジャズ系のバンドに所属していていわゆる箱モノのギターも使っていたので、初めて完成させたアーチトップギターという事にも興味を持っていた。弾かせてくれないかとお願いしたら意外なほどあっさりとOKが出た。

漆黒のハードケースから出されて私に手渡されたそれは、ずっしりとした重量感と不思議なバイブレーションを伴って私の両膝と両腕で区切られた空間にストンと収まった。何か異次元の世界の構造物のようなオーラ 。滑らかで艶のある美しい赤のグラデーション。ボディー全体の複雑で優雅な曲線。塗料の甘い香りと出来立てのログハウスのような木の匂い。音を出す前からギター全体から生命力があふれ出すのが感じられた。

その後、紆余曲折を経てそのギターは私のもとへとやって来る。その当時の私の経済力からするとかなり無謀な買い物だったけれど、そのポテンシャルから考えるととても安すぎる値段だったとも思う。

音を文章で表現するのは至難の業だと思うけれど、ここでできるだけ客観的に「インプレッション」のインプレッション(印象)を述べてみたい。

(その1)高音の鈴鳴り
 マーチンのギターでよく使われる表現だが、それよりも芯が強くて立体的な鈴鳴り。特に10~17フレット付近のハイポジションでメロディーやコードを弾くと固さと甘さが絡み合った音のかたまりが遠くまで飛んで行く。

(その2)圧倒的な音抜けの良さ
通常、ピックアップを装着しないギターは管楽器やピアノより音が小さくてジャズバンドのアンサンブルでは使えないのだが、カウントベイシー楽団の名手フレディー・グリーンはピックアップなしのギターでビッグバンドのリズムを支え続けた。阿部さんのギターを同様の条件で弾いたら、へなちょこの私の腕でも生音だけでホーンセクションの轟音の隙間からリズムギターが聞こえてきた。

(その3)高精度かつ頑丈
夏の炎天下に野外で長時間弾く機会があったが、チューニングがあまり狂わずに助かった。一年を通してネックがあまり大きく動かない。熱い時も寒い時もネック全体の音程がとても正確。どんな複雑なコードを押さえても程よくまとまりかつひとつひとつの音が立って聞こえる。

様々なジャンルのプロギタリストにこのギターを弾いてもらった。みんなどうこのギターを評価したらいいのかわからず戸惑っていた。おもしろいのは、ギター奏者以外のミュージシャンや楽器を演奏しない観客にとてもいい音だとほめられる事だ。一般的にギタリストは保守的だと言われる。ギタリストが思い描く一般的なイメージから離れた位置にあるギターは正当に評価されにくいという事かも知れない。私自身は、言うまでもなく最高に良い音の楽器だという確信を持っている。

数年前から、ピックアップを新たに付けてもらい、エレクトリック・アーチトップとしての音も探求しはじめた。やはり、一般的な(ギブソン的な)ジャズトーンとは違うテイストの音がアンプから飛び出してくる。ハーモニックな成分を豊潤に含んだアーチトップサウンドだ。50年代のタル・ファーロウの太くて明るいサウンドに、よりフラットトップ的なアコースティックなニュアンスが加味された音のような印象を受ける。

まだまだ、このギターに見合う腕前にはなっていない私だが、一生をかけて自分のもうひとつの「声」としてのギターサウンドをインプレッションとともに作り上げたいと思っているのです。

S. I.

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